ヒュッケル法 [電子物性]
量子化学の教科書で分子軌道のところで出てくるヒュッケル法で、ブタジエンと並んで計算例として取り上げられるのが多いのがベンゼンだと思います。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月25日
ヒュッケル法では分子軌道を各原子軌道に係数を掛けた和とおいて、ハミルトニアンの行列を作って、行列式を解いて、エネルギーと係数を求めます。
ヒュッケル法でのベンゼンの分子軌道の計算手順は例えばこちらのページに載っています。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月25日
ベンゼンは1.5重結合?~ヒュッケル法 https://t.co/2XMqsHp9Ku
ヒュッケル法で分子軌道を計算すると、各原子軌道にかかる係数は実数として求められます。そうして求めた係数を使ってベンゼンの電子雲を表すと図のようになります。(図はアトキンス物理化学より引用) pic.twitter.com/ervEgq8XED
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月25日
ところで昨日ツイートした環状1次元鎖のLCAOのモデルにおいて、原子の数N=6として各原子が炭素であるとすると、これによってもベンゼンを表すことができます。そのときの各原子軌道の係数はc=exp(iπ(p/3)) (p=0,±1,±2,3)でした。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月25日
間違えました。正しくは係数は
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月25日
c_n = exp(iπn(p/3)) (p = 0, ±1, ±2, 3)
でした。
そして1次元鎖のモデルでの電子雲の形はこれでした。(円形を開いて直鎖で表した図です) https://t.co/B2pYudKOfk
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月25日
ヒュッケル法も1次元鎖のモデルもどちらもLCAOなので、両者は同じ結果を導くはずです。しかし、原子起動の係数は、ヒュッケル法では実数のみなのに対し、1次元鎖のモデルでは複素数で表されます。そして電子雲の形も異なります。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月25日
さて、これはどういうことでしょう?
これの答えですが、1次元鎖のモデルから導かれた原子起動の係数のうち、同じ大きさで符号が反対のもの同士を足し引きして実数表示するとヒュッケル法での解と同じになります。 https://t.co/jRZ476QYng
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月26日
ベンゼンのπ電子の軌道のうち、下から2番目を例とします。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月26日
この軌道は2重に縮退しています。
1次元鎖のモデルではこの軌道の係数は
c_ = ±exp((1/3)iπn)
です。(nを一般化してxとしてもいいです。)
この反対符号の係数を足し引きするとcosとsinに変形できます。
そうすると図のような対応が取れます。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月26日
紫の点の大きさと符号がヒュッケル法から得られた電子雲の形状に対応することが分かります。 pic.twitter.com/7S5P5Yo6vw
波動関数の実数表示は量子力学の(原子軌道)のところでも出てきます。よく見るp軌道の図もpz以外は複素数の解の組から実数の解を作って表したものです。 pic.twitter.com/cSWuHaux0A
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月26日
複素数の解を足したり引いたりしてもいいのは、シュレディンガー方程式の解である波動関数が縮退している場合、その解同士の線形結合も解になるという性質からです。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月26日
環状の分子については、ヒュッケル法で面倒な行列の計算をしなくても、1次元鎖のモデルからすぐにエネルギーと波動関数の係数を導くことができます。 https://t.co/bjL1KZGkKH
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月26日
強く束縛された電子モデル(LCAO) [電子物性]
結晶波数という言葉、結晶の電子構造を考える際に使うのですが、とてもイメージしづらい表現だと思います。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月24日
フォノン(格子振動)の波数は機械的な振動モデルで表されるのでまだ簡単なんですが、電子の波数はそういった振動とは異なるのが難しいところです。
電子のバンド構造を考えるのには、ほぼ自由な電子モデルと強く束縛された電子モデル(LCAO)の2つのアプローチがあります。電子の波数を考えるのにはLCAOの方が考えやすかったのでLCAOのアプローチで説明します。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月24日
環状に原子が並んだ1次元鎖のモデルで考えます。環状で考えるのは周期境界条件を導入したのと同じになるからです。周期境界条件はよく表面の影響を取り除くためのテクニックとして使われます。環状分子とも対応させやすくなります。 pic.twitter.com/MpPUcHT4Ks
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月24日
LCAOでは、環状に並んだ原子がそれぞれ元の原子軌道の性質を有していると考えます。そして原子を並べたことで、その位置関係によって原子軌道内で振動するタイミングが関わってきます。その振動のタイミングのずれ(位相)をcで表しますと...(続く)
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月24日
(続き)画像のような関係が導かれ、最後に出てくるkが電子の波数を表します。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月24日
n番目の原子は元の原子軌道にcのn乗の係数が掛かりますが、cの絶対値が1なので、これによって原子軌道の形は変わりません。 pic.twitter.com/JAEVPckFgV
1次元鎖全体の波動関数は、個々の波動関数を足しあわせものになります。 pic.twitter.com/8FR0WmNiJd
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月24日
隣の原子と原子軌道の位相がずれるというのはどういうことなのか? というのを水素分子の分子軌道で考えてみます。(水素分子は環状ではないですが、それとは関係なく適用できます)
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月24日
水素分子の分子軌道は、それぞれの原子軌道の足し算および引き算で表されました。これは原子の数がN=2のときに隣の原子との位相差が0またはπ/Lずれているということに相当します。これにより結晶の場合と分子の場合の対応付けができます。 pic.twitter.com/z0lChtNSEh
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月24日
振動のタイミングがずれるというのは画像のような重りをばねで結んだモデルでイメージすると対応が取れます。 pic.twitter.com/rf5NuOp5N4
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月24日
LCAOを考えたとき、波動関数はどうなっているのか? 波動関数は複素関数なのでグラフでは表しづらいので、波動関数の絶対値の2乗である電子の存在確率密度(電子雲)と位相で表してみます。例としてN=6で考えますと、k=0,±(1/3)π/L,±(2/3)π/L,π/Lが取れます。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月24日
k=-π/Lもとれますが、π/Lと-π/Lは同じ意味になります(exp(iπ)=exp(-iπ)のため)。また、k=+(1/3)π/Lと-(1/3)π/L、k=+(2/3)π/Lと-(2/3)π/Lの逆符号の組は位相の進み方が逆方向になるだけで形が変わらないので負の方は省略します
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月24日
N=6の場合の1次元鎖をLCAOでs軌道を計算したときの電子雲です。色が位相を表します。形の変化は分かりづらいのですが、k=π/Lで原子同士の間に電子の存在確率が0の節ができていることに注目 pic.twitter.com/Tdfayg3wDf
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月24日
こちらのグラフでは同じくN-6の場合を縦軸に電子の存在確率密度をとって表しています。波数kがπに近くなるほど原子同士の間の電子の存在確率が減り、原子核の位置に確率密度が集中します。 pic.twitter.com/46TDClkfQi
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月24日
そして電子の存在確率密度の平均値がエネルギーに対応し、グラフにすると画像のようになります。kの値はとびとびですが、原子の数Nを無限大に大きくするとkは連続と見なせます。 pic.twitter.com/gCCkbzPNsL
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月24日
αは元の原子軌道によるエネルギー、 βは原子間の軌道の重なりによるエネルギーを表します。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月24日
言い忘れ:このほぼ連続したエネルギーの一群、これがいわゆるエネルギーバンドです。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月24日
N=6の場合、-π/Lからπ/Lまでの間を6等分した線の位置に対応する点(赤点で示した点)の位置のエネルギー準位をとります。画像では赤点が7つありますが、-π/Lとπ/Lは等価なのでとれる準位は6つです。 pic.twitter.com/Kz3BRuIsqN
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年7月24日
クローニッヒ・ペニーモデル [電子物性]
半導体を最も特徴付ける物性値はバンドギャップですが、そもそもなぜバンドギャップが現れるのかを説明するのには『強く束縛された電子モデル』と『ほぼ自由な電子モデル』という2つのアプローチがあります。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年6月19日
『強く束縛された電子モデル』というのは、分子軌道の考え方、LCAO近似そのものです。個々の原子の原子軌道を結晶の格子点に置いて出発するアプローチです。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年6月19日
『ほぼ自由な電子モデル』は、周期ポテンシャルを決めて、そのポテンシャルの空間を電子がほぼ自由に動いているとして波動方程式をといていくアプローチです。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年6月19日
どちらのアプローチでもエネルギーバンドを表すことができますが向き不向きがあります。『強く束縛された電子モデル』は価電子帯を再現しやすく、『ほぼ自由な電子モデル』は伝導帯を再現しやすいと言われています。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年6月19日
ほぼ自由な電子モデルの例として、クローニッヒ・ペニーモデルが固体物理の教科書によく載っています。個々の陽イオンのポテンシャルはクーロンポテンシャルなので1/r²に比例しますが、それを矩形に近似して解くモデルです。 pic.twitter.com/32MFPSskMj
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年6月19日
クローニッヒ・ペニーモデルは1次元結晶のモデルで、しかもかなり雑な近似なので現実の物質を表しませんが、簡潔で解きやすいのでエネルギーバンドがなぜ現れるのかの説明によく使われます。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年6月19日
どの教科書でも、クローニッヒ・ペニーモデルの説明は波数kに対する電子のエネルギーEを表したところで終わってて、波動関数(もしくは電子密度)の解は出てこないんですよね...
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年6月19日
KronigとPennyの原著論文でも波動関数の解は書かれていません。(解の形には少し触れている程度)https://t.co/ie5kiAv3Wi
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年6月19日
私が調べた限りでは、クローニッヒ・ペニーモデルの波動関数の解が書かれた資料はこの解説論文だけでした:https://t.co/ZwS1GbV66K
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年6月19日
ただし、b=0のデルタ関数の周期ポテンシャルとしています。
Wolfeの解説論文に基づいてk-Eの関係と電子密度のグラフを計算して描いてみました。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年6月19日
まずk-Eのグラフ。こちらは論文に描いてある図の通りになりました。 pic.twitter.com/gqNGimosPn
こちらはE = 0.46 eV, k = 0.5Å⁻¹における電子密度のグラフ。色は波動関数での位相を表しています。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年6月19日
これが問題。周期がLではなくkの波形になっています。 pic.twitter.com/Z6FNnymRvg
訂正:周期kではないです。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年6月19日
周期ポテンシャル中の電子の波動関数はブロッホの定理に従うことになっています。クローニッヒ・ペニーモデルもブロッホの定理を用いています。しかし... pic.twitter.com/o0rVOTwhhQ
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年6月19日
松沢 剛雄, 高橋 清, 斉藤 幸喜「電子物性」森北出版 のブロッホの定理についての項によると、"xの点での電子の存在確率|φ(x)|²はx+Lの点での電子の存在確率|φ(x+L)|²に等しくなければならない."とあります。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年6月19日
図再掲
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年6月19日
クローニッヒ・ペニーモデルから得られたこの電子密度(電子の存在確率)の図、周期Lでないのでブロッホの定理に反していることになると思うんですが...
描き方を間違えたのか、はたまた別に問題があるのか。 pic.twitter.com/pdlBShKXU3
クローニッヒ・ペニーモデルの解き方の一部ですが、ブロッホ関数の形に置いてますが、後からexp(ikx)を打ち消す形になって、最終的に波動関数がブロッホ関数になってないような思えます。 pic.twitter.com/s2j3b77SiH
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年6月19日
これについてわかる方いたら教えてください m(_ _)m
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年6月19日