原子の結合 [電子物性]
電子材料の特性は原子が集まって結合した時の電子状態により決まります。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年5月22日
原子は互いに接近した各々の電子の軌道が干渉しあいます。これは電子同士の軌道を同じ位置に重ね合わせることができないこと、そして電子が波の性質をもつことから起こります。
分子として一番単純な構造をしている水素分子を考えます。水素原子は球形の原子軌道の形をしており、水素原子同士が近づいたときに軌道が重なる干渉領域が現れます。 pic.twitter.com/kM1SeftBSp
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年5月22日
原子軌道の干渉を厳密に表そうとするとかなり複雑になるのですが、互いの波動関数を一次結合(定数を掛けて足し合わせる)で近似すると単純になり、分かりやすくなります。この近似のことをLCAO(原子軌道の一次結合)と言います。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年5月22日
水素分子の場合、水素原子の軌道を同じ位相で足し合わせるか、逆位相で足し合わせるかの2通りが考えられます。同位相で足し合わせた場合を結合性軌道、逆位相で足し合わせた場合を反結合性軌道と呼びます。そのときの電子雲は画像のようになります。 pic.twitter.com/cQmOt6zuUJ
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年5月22日
結合性軌道では電子が2つの原子核(陽子)の間に存在する確率が高くなり、この電子がクーロン引力により原子核同士を結びつけようとします。これにより2つの水素原子は電子により結びつき水素分子となります。 pic.twitter.com/naBEEL2ax5
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年5月22日
反結合性軌道の場合は原子軌道同士の干渉により波動関数が打ち消され、2つの原子核の間に電子が存在する確率が低くなります。原子核の間に電子が存在しないと原子核の間にクーロン斥力が働き、原子同士を遠ざけようとします。 pic.twitter.com/sqEfnk02VJ
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原子の軌道が重なり合って新たに「結合性軌道」と「反結合性軌道」の2つの分子軌道ができますが、1つの軌道には電子のスピンを逆向きにして2つの電子が入れますので、安定な状態では水素分子の場合は結合性軌道の方に2個の電子が入り、反結合性軌道の方には電子は入りません。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年5月22日
水素分子の各軌道を原子間距離に対するポテンシャルエネルギーとして表すと図のようになります。結合性軌道では原子を近づけると元の水素原子の原子軌道でのエネルギーより低くなり、あるところで極小を持ち、位置が分子の結合長になります。 pic.twitter.com/AggAbl3WdS
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水素分子の場合は、反結合性軌道は"電子が存在しうる軌道"であって、安定な状態では反結合性軌道に電子は入りません。しかし、もっと原子番号の大きい原子の結合では、反結合性軌道に安定して電子が入る場合があります。
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図は窒素原子と窒素分子の各軌道のエネルギー準位を模しています。結合性軌道、反結合性軌道への分裂は軌道ごとに起こります。分子の軌道に「 * 」が付いているものが反結合軌道であることを表します。 pic.twitter.com/GoMPsv0tbJ
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年5月22日
電子は分子の軌道のうちエネルギー準位の低いものから順に2つづつ入っていきます。窒素原子は7個の電子を持つので、分子では14個の電子が配置されます。これを順に詰めていくと、2sの反結合軌道に電子が2つ入りますが、結合性軌道に入った電子の方が多いため、分子は安定します。
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2原子分子では各軌道が結合性軌道と反結合性軌道に分裂します。では原子数を増やすとどうなるでしょう?
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年5月22日
原子数が多い場合は軌道を計算するのがより複雑になるので、ヒュッケル近似というさらに粗い近似を用いて計算して表すことが多いです。
炭素原子4つの直鎖からなるブタジエン(C₄H₆)のπ電子軌道の計算例がよく量子化学の教科書に載っています。ここではその結果だけを借りますと、エネルギー準位は画像のようになります。 pic.twitter.com/0R8Px2DXEh
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ブタジエンのπ電子軌道のエネルギー準位で、αは元の炭素原子の2p軌道のエネルギーで、βは軌道干渉による影響分を表します。4原子の場合は、1つの軌道が4つに分裂し、そのうち2つが結合性軌道寄り、2つが反結合性軌道よりの軌道をとります。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年5月22日
原子軌道が2原子結合すると2つの軌道に分裂し、原子数を増やすとさらに分裂した軌道の数が増えます。では個体のようにより原子の数が多くなるとどうなるか? 原子数が非常に多くなると、エネルギー準位はほぼ連続的にとれる帯のようになります。 pic.twitter.com/G6ljOJMfpK
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年5月22日
エネルギー準位がほぼ連続的にとれる帯、これがいわゆるエネルギーバンドです。このエネルギーバンドにも結合性のものと反結合性のものに分かれます。結合性のバンドと反結合性のバンドの間には隙間が生じる場合があり、そのエネルギーに電子が入れないので禁制帯とよばれます。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年5月22日
結合した原子が持っていた電子をは、結合後の軌道に各2つずつエネルギーの低い方の準位から配置されます。そうしたときに結合性バンドの方がすべて電子で埋まり、反結合性バンドには電子が無く、かつ禁制帯が生じている場合、その個体は「絶縁体」(または「半導体」)になります。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年5月22日
半導体の電子配置をしているときの禁性帯のエネルギー幅が半導体を特徴付けるバンドギャップです。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年5月22日
シリコンやゲルマニウム等の共有結合性の半導体は基本的に結合性軌道と反結合性軌道への分裂によりバンドギャップが生じています。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年5月22日
ブタジエンの4つのπ電子軌道の電子雲です。(実際は炭素鎖が折れ曲がっていますが、直線にして断面を表しています)
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年5月22日
エネルギー準位と軌道の形の傾向が分かると思います。 pic.twitter.com/74fIyZs8Vz
電子雲の描き方 [電子物性]
昨日のツイートに関連して、電子雲の描き方:
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月27日
電子雲はモンテカルロ法で計算してプロットします。
まず座標x, y, z及び値pを乱数で決め、次にそのx, y, zでの電子の存在確率密度φ^2を求めます。
p > φ^2であればx, y, zを書き出し、そうでなければ再び乱数でx, y, z, pを決めてやり直します。これを規定回数だけx, y ,zの組を書き出せたら、gnuplot等の3Dグラフをかけるソフトで書き出せばOKです。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月27日
ちなみにこれは失敗した図。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月27日
点に周期が出てしまっています。使用する乱数が悪いとこのようになります。
(この図ではExcel VBAのRnd関数を使用しました)
ちなみに、TEMで微粒子の結晶を見るとこの図に似た模様が観察されます。 pic.twitter.com/n1DsKG2rNG
VBAでやる場合は、このページhttps://t.co/UMmZzoxMnn
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月27日
のコードを追加して、メルセンヌツイスタという乱数発生方法でやるとうまくいきます。
電子雲は自分で描いてみると理解が増しますが、それが難しい場合は「Atom in a BOX」というアプリがオススメです。https://t.co/3MVwn0EaKt
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月27日
こんな高次の電子雲も立体的に見ることができます。 pic.twitter.com/6eiFn0hj4v
原子軌道 [電子物性]
電子材料の特性は物質の電子構造がどのようになっているかで決まります。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月26日
これを理解するために、まずは物質の構成単位である原子の中では電子がどのように存在しているかを理解する必要があります。
原子中の電子のふるまい、原子軌道を考えるには、まず、最も単純な水素原子をモデルとして考えることから始まります。電荷eを持つ陽子に対し、距離rだけ離れた位置の電子(電荷:-e)はクーロン引力を受け、ポテンシャルVを感じます。(図参照) pic.twitter.com/YWFgBUe1Gj
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月26日
電子は波の性質を持っていまして、単純な粒子として考えては矛盾する現象が見られます。なので単純な2体問題であっても、惑星の運動と同じようには解けません。そこで有名なシュレディンガー方程式により記述されます。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月26日
シュレディンガー方程式には、Vに求めたい電子が感じるポテンシャル(水素原子の場合にはクーロンポテンシャル)を代入して解けばよいわけです。水素原子の場合、解き方は複雑ですが、大抵の量子力学の教科書に載っています。解は画像の通りです。 pic.twitter.com/p6tzJngQK3
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月26日
波は閉じ込めると、その両端の間の距離の整数倍でしか定在波が立たなくなります。電子も波ですからこの性質があります。シュレディンガー方程式の解(波動関数)での量子数というのが波の『整数倍で』にあたる部分です。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月26日
シュレディンガー方程式の解である波動関数φは実はそれ自体では意味を持ちませんが、波動関数の2乗は電子の存在確率密度を表します。それを図にして表すと、電子は陽子の周りに朧げな位置に存在しているのがわかります。これを電子雲と呼びます。 pic.twitter.com/hRPnvrRCWj
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月26日
主量子数nが増えると電子の分布がは陽子から外側に離れていきます。画像はn=2およびn=3でl,mが0のときの電子雲です。分布の色は、黄色が波動関数で正、青は波動関数で負であった部分を表します。 pic.twitter.com/WhzZ0vBFiv
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月26日
主量子数が一つ増えるごとに電子雲の動径方向で節が一つ増えていることがわかります。このとこから、主量子数は動径方向に伸縮する振動の振動数に対応していることがわかります。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月26日
次に方位量子数について考えます。画像はn=3,m=0でl=1およびl=2のときの電子雲です。l=0の時に比べ、形が大きく変わり、方向性をもつようになります。したがって方位量子数は電子の軌道の方向を決める数であることが分かります。 pic.twitter.com/z3YRU0aapr
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月26日
さらに、電子雲の形状から、方位量子数が一つ増えるごとに、θの回転方向で節が2つずつ増えていることがわかります。つまり、方位量子数はθ回転方向の振動の振動数に対応した数でもあります。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月26日
磁気量子数は角運動量が関わってきて厄介なので詳しくはまた別のまた機会に。磁気量子数は球面調和関数の指数関数部分、exp(imϕ)としてでてきますので、磁気量子数はϕ方向の振動数に対応しているといえます。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月26日
さらに量子数について
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月26日
主量子数n=1,2,3,...は高校理科で習うK殻,L殻,M殻,...に対応しています。
方位量子数l=0,1,2,...の軌道はs軌道,p軌道,d軌道と呼ばれます。
さらに主量子数について
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月26日
電子の動径方向の平均位置は主量子数のみで決まり、エネルギーは1/n²に比例します。n=1のときが最も安定した状態であり、これが基底のエネルギーになります。 pic.twitter.com/Zz70HUvK2a
n=1のときのエネルギーは-13.6 eVで、これは水素第1イオン化エネルギーの値と一致します。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月26日
水素原子で求めた電子の軌道の理論は、ヘリウム以上の原子番号の原子に対してもほぼそのまま使えます。2個目、3個目の電子が出てくることで電子同士のクーロン斥力が働きますが、陽子も同じ数だけ増えた影響で電荷遮蔽されるため、クーロン斥力の影響は非常に小さくなるのだそうです。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月26日