電球 [表面科学]
白熱電球
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月10日
エジソンの発明以来代表的な照明として用いられてきましたが、電力から光への変換効率が10 % 程度と低いため、最近ではLED照明への切り替えが進んでいます。しかし、実は電球には多くの材料科学の要素が詰まっています。
白熱電球が光を発する原理は熱輻射(黒体輻射)です。熱輻射は量子力学の導入部分の前期量子論でもでてきますね。どんな物質も温度が高いとそれだけで光を発するという原理です。温度が高いほど発光が強く、中心となる波長も赤外から可視光に移り発光効率が高くなります。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月10日
フィラメント
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月10日
白熱電球はフィラメントに電流を流し2000℃以上もの高温にして光を発します。フィラメントには融点と電気抵抗率が高い物質が適しています。エジソンは日本の竹をフィラメントに用いたことで有名ですが、寿命に問題がありその後タングステンにとって変わりました。
タングステン
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月10日
常圧での融点が3407 ℃と非常に高く、抵抗率も高い金属です。しかし硬く脆い性質のため加工がしにくい材料です。融点が高すぎて溶かして固めることができないので、インゴットは粉末冶金(粉にして焼き固める)で作られます。
タングステンはインゴットから高温ダイス法と呼ばれる手法でフィラメントに加工されます。この方法で加工されたタングステンは繊維状の多結晶になります。タングステンは高温になると多結晶中の粒子が成長して大きくなるときに切れやすいため、繊維状の結晶が集まった多結晶が望ましいのです。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月10日
竹繊維からタングステンへ置き換わった後もまだ寿命が短いのが問題でした。ゼネラル・エレクトリック(GE)の多くの研究員がこの問題に取り組み、電球内の真空度を上げる改良を行っていましたが、ラングミュアはガラス内の水とタングステンの蒸発に原因があることを証明しました。
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Water-vaporサイクル
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月10日
ラングミュアが示したタングステンフィラメントが消耗する原理です。熱によってガラス壁面から脱離した水がタングステンを酸化し、酸化したタングステンが蒸発して壁面に付着するのが繰り返されて消耗します。 pic.twitter.com/3Fnnlws285
Water-vaporサイクルは水分子がタングステンを酸化したときには水素が外れ、酸化タングステンがガラスに付着すると水素により還元され、酸素は水素とくっついてまた水分子に戻り反応が繰り返し起こるのがポイントです。
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ラングミュアはフィラメントの消耗を抑えるために、真空度を上げるという改善とは逆行して、不活性ガスのアルゴン(Ar)を電球に封入してタングステンの蒸発を抑えるという改良を行い、電球の寿命を向上させることに成功しました。
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ラングミュアの電球の改良についての話は、表面科学の研究のお手本として、表面科学の教科書によく取り上げられています。
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電球の内部を真空からアルゴンにしたことで、タングステンの消耗は抑えられましたが、ガスを伝わった熱伝導による損失が増加しました。原子が重い方が熱伝導率が低くなるので、現在ではアルゴンからクリプトン(Kr)に置き換わりました。(そのためクリプトン球と呼ばれます)
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ハロゲンサイクル
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月10日
より強い光を必要とする場合はさらにハロゲンガスを封入したハロゲンランプが用いられます。わずかに蒸発したタングステンにハロゲンが反応してハロゲン化物になることで壁面への付着を防ぎ、フィラメントに原子を戻します。 pic.twitter.com/XDfFxL9XBx
ゲッター
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月10日
電球は真空ポンプで大気を引き抜いてから不活性ガスが封入されますが、真空にひいてもどうしても残る水分や原子があります。それを個体に化学吸着させて不活性にするために赤リンなどの物質を塗布します。この働きをする物質をゲッターと呼びます。
赤外線反射膜
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月10日
フィラメントは可視光と同時に赤外線を発します。赤外線は照明としては損失なので、反射してフィラメントに返すと効率が向上するので、可視光は透過し赤外線のみを反射する赤外線反射膜が電球に塗られています。この膜は誘電体の多層膜で、光の干渉を利用して赤外線のみを反射します。
ガリウムリン(GaP) [半導体材料]
ラブライブ!の星空凛と、半導体のガリウムリン。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月3日
色が完全に一致です。 pic.twitter.com/1M2rAVlx9x
ガリウムリン(GaP)は他の多くのIII-V族半導体と同じ閃亜鉛鉱型の結晶構造をしています。2種類の原子で構成されていることを無視すれば、シリコンのダイヤモンド構造と同じ原子配置の結晶構造型です。 pic.twitter.com/4kNLzDGEeg
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月3日
GaPのバンドギャップは2.26 eVで、緑色の波長に相当します。III-V族半導体の中では珍しく間接遷移型半導体です。SiやGeなどは間接遷移型半導体であるため発光しにくいのですが、GaPは間接遷移型半導体なのに発光効率が高いという特異な特性を持っています。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月3日
間接遷移型半導体は価電子帯の頂点と伝導帯の底の波数位置が一致しないためフォノンを介さないと遷移できないのですが、間接遷移する確率は低いため、間接遷移する前に欠陥を介して非放射で再結合してしまいます。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月3日
GaPが間接遷移型半導体でありながら発光効率が高いのは、電子遷移に不純物の準位を利用するためです。例えば窒素(N)をドープすると伝導帯のすぐ下にNの準位ができます。伝導帯の電子はこのNに捕らえられます。 pic.twitter.com/VOllnvK4xD
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月3日
GaP中のNの準位は波数空間で広がっており、電子はこの準位を介して価電子帯の頂点と同じ波数で放射遷移することができます。これによりGaPは直接遷移型半導体と同程度の発光効率で発光させることができます。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月3日
GaPにドープする不純物の種類により発光する波長を変えることができます。不純物の原子は1種類でなくてもよく、原子のペアで作用する場合もあります。Nドープでは565 nm(黄緑色)、ZnとOのドープでは700 nm(赤色)の光を放出するため、これらはよくLEDに用いられています。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年4月3日
レーザ(2) [電子デバイス]
レーザは光を放出する媒質によって大別され、気体レーザ、固体レーザ、半導体レーザ、色素レーザ、自由電子レーザ等に分けられています。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年3月22日
CO₂レーザ
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年3月22日
炭酸ガス(CO₂)を窒素やヘリウムに混ぜた気体を媒質とした気体レーザです。発光波長は10.6 μmの長波長の赤外線で、効率は気体レーザの中では異常に高く20 %にもおよび、出力も大きくとれるので金属加工機等に用いられています。
YAGレーザ
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年3月22日
加工機や分析等に頻繁に用いられている固体レーザです。YAGとはイットリウム・アルミニウム・ガーネットの略で、組成式Y₃Al₅O₁₂のガーネットの結晶構造をした結晶です。通常はNd³⁺イオンを添加して1064 nmの波長で発振させます。
Nd:YAGレーザの基本波長は1064 nmですが、第二高調波である532 nmを用いることも多く、半導体の加工等にはこの波長の光を用いられます。またYb³⁺イオンを添加したYb:YAGレーザというのもあり、こちらはより高効率で発振しますがより強い励起光を必要とします。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年3月22日
エキシマレーザ
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年3月22日
希ガス+ハロゲンガスを媒質とし、紫外域の波長の光を発振できるのが利点のレーザです。混合ガスを励起すると励起状態で希ガスとハロゲンが結合した分子(エキシマ)を形成し、発光して基底状態になると速やかに分解されるため、反転分布を形成しやすいことを利用しています。
現在最先端の半導体製造ラインではArFのエキシマレーザが用いられています。半導体のパターニングは光の回折限界の関係から波長が短い光の方が有利であり、ArFエキシマレーザの193 nmと短い波長は最適です。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年3月22日
半導体レーザ
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年3月22日
固体レーザや気体レーザは外部光源を必要とするのに対し、半導体レーザは電流を流すだけという特異で簡便な方法によりレーザ光を放出できます。非常に小型で、エレクトロニクス機器に組み込まれ至る所で活躍します。
半導体レーザはLEDと同じpn接合を形成すると同時に、光を放出する活性層の両側をそれよりバンドギャップの高い材料で挟んだ二重ヘテロ接合を形成した構造が特徴的です。 pic.twitter.com/HssWVH65sT
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年3月22日
二重ヘテロ接合は効率よく誘導放出するためにキャリアの閉じ込めと光の閉じ込めを行う効果があります。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年3月22日
キャリアの閉じ込め
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年3月22日
電子と正孔(キャリア)は半導体全体に共有されているため、そのままでは再結合する確率が低いですが、バンドギャップが低い部分を作るとそこに両キャリアがそこに落ちて溜まり、そこで再結合しやすくなります。
光の閉じ込め
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年3月22日
半導体でレーザ発振するには活性層のみで光が往復し誘導放出を繰り返す必要があります。半導体はバンドギャップが大きくなると屈折率が小さくなる傾向があり、二重ヘテロ接合を形成すると光ファイバーと同様の構造になり光が接合の外側に出ず、光が閉じ込められます。
初期の半導体レーザは基板の面に対して平行に取り出していました。光共振器は結晶を割ってできるへき開面を利用していました。へき開にはナイフを使用していましたが失敗しやすく、歩留まりがよくなかったそうです。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年3月22日
後にレーザ光を基板面と垂直に取り出す面発光レーザが開発され、これにより歩留まりや生産速度等も向上したそうです。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年3月22日
ファイバーレーザ
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年3月23日
光ファイバーにEr³⁺,Nd³⁺,Yb³⁺イオン等の希土類イオンを添加したものをレーザ媒質とするレーザです。活性域を長くとっても巻いてコンパクトに収めることができ、kWクラスの大きな出力が得られます。近年、加工機に用いられることが多くなりました。
ファイバーレーザのポンピング光源には半導体レーザが用いられます。半導体レーザは小型であるためそれ自体では大きな出力をとれませんが、他のレーザよりも高効率(〜60%)であり、媒質に合った波長を選べるので、大出力のレーザのポンピング光源としては最適なのです。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年3月23日
ファイバーレーザの発明自体は1960年代からありましたが、最近になって大出力のファイバレーザが開発されるようになったのは、光通信技術の発達により光ファイバーが高品質化したことと、半導体レーザが高輝度・高性能化したことによります。
— ヒサン@電子材料勉強中 (@Hisan_twi) 2016年3月23日